BWマイナーチェンジ版予想してみた
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注意!
これは某日のチャットにて、「BWのマイナーチェンジはどうなるんだろう?」から発展した話を一時間くらいで小説っぽく体裁を整えたものです。
チャットの展開の都合上、ベルのキャラが完全に崩壊しております。
っていうかチャットの深夜テンションで書いたんでそっとしてください。
BWゲーチス戦後あたりから。
Nの城。
激しい戦いでボロボロに傷付いたエントランスを“彼女”は見回す。
まあ、二十人弱のトレーナーが各々ポケモンを出してバトルすれば、こうなるだろう。
「戦況は?」
「はっ、かんばしくありません!」
白髪に黒服の三人組が“彼女”の問いに答え、下がる。“彼女”からいくつかの指示を受け取ると、三人は刹那の内に姿を消した。地面に倒れている誰かが「裏切り者」と呟いたが、それもすぐ虚空に消えた。
「さてと」
ひざまずき、崇拝するような目で自分を見上げる六人の老人に、“彼女”は追い払うみたいに手を振った。
「ご老体に悪いけど、ジムリーダーたちを見張っててちょうだい……私は最後の仕上げに行くわ」
そう言って、帽子を引き下げて目深に被ってから、“彼女”は走り出した。
〜
首を垂れ、力なく地に落ちる悪竜を、私は呆然と見つめていた。
デスカーン、バッフロン、シビルドン、ガマゲロゲ、キリキザン、そして目の前の三つ首の悪竜……これで六匹倒したのだ、と私は改めて気付く。目の前の、諸悪の根源、このださいマントのおっさんとのポケモンバトルに勝利したのだ。
「……解放なんて、させない」
私の声は、英雄なんて称号に合わない。震えている。
「それが、私の、理想だから」
やっとの思いでそれだけ言い切った私は、後からやって来たチェレンとアデクさんに道を譲った。二人はゲーチスを引きずっていく。ゲーチスのマントって本当に重そうだ。二人の姿が見えなくなる。急に足が震えて、立てなくなった。その場にへたりこむ。いいよね、戦い終わったんだから。心臓が飛び跳ねている。肩が細かく震えてる。そんな私に手を差し伸べたのは、ついさっきまで世界の在り方を賭けて戦っていた相手だった。
「寒いの?」
震える私に、見当違いの答えを口にするN。私より年上のはずなのに、何も知らない子供みたいな、変な人。
「……悲しいの?」
Nの手が私の頬に触れる……その前に、私は腕で乱暴に涙を拭いた。「ううん」私は無理矢理笑う。「嬉しい時だって涙は出るのよ」
青年は頷いた。覚えておくよ、と言うように。私は彼の手を借りて、よっこらしょと立ち上がった。パンパン、と頬を叩く。あーもー私にこんなの似合わないっしょ! テンション上げてかないとね!
「ふたり、仲良いのね」
聞き慣れた声がした。
振り向く。黄色の髪に、緑の帽子。十年前からずっと馴染みのその姿。
「ベル!」
破顔して、彼女に駆け寄ろうと思っていた。でも、出来ない。
ベルと会えた喜びより、ずっと大きな疑問が口からこぼれ出たから。
「ベル……何? その格好」
ベルはいつもの帽子に……何故か、淡黄と紫のマントを羽織っていた。センスの悪い目玉模様が書かれている。さっき見たものと、さっき戦ってたやつが着てたのと、よく似てる。
私がそう口に出すと、ベルは可笑しそうに笑った。変だ。ベルはこんな笑い方する子じゃない。
「ゲーチスね……ちょっとは見込みあると思ったんだけど、違ったみたい」
「何を言って……?」
戸惑う私を、ベルは冷たく見据える。
「ベル?」
「伝説の、境界の竜に見向きもされなかった。所詮、その程度ってことね」
寒気がした。何だろう、嫌な予感がする。
ベルが笑う。その姿は白く冷たい風の影に隠れて、見えなくなってしまう。
ヒュララララ……と低い声がした。吹雪に混じって、竜のような、強大な何かが近付いてくるのを感じた。私の腰に付けたボールが、急に激しく揺れて、中身が外に飛び出した。
「ゼクロム!」
「レシラムも!?」
私のゼクロム、そしてNのレシラムが、勝手にボールから出てきた。二匹とも満身創痍。だが、負けられないと、その思いを宿した瞳を吹雪の中に向ける。
「キュレム」
Nが小さくその名を口にする。
「流石、物知りね。ゲーチスの教育は良かったのね」
吹雪の向こうから聞こえるのは、やっぱりベルの声。
「ふたりとも、闇に消えてもらう。傀儡の王にはチェレンでも据えるわ。レシラムもゼクロムも、私が大切に育ててあげるから気にしないでね」
笑って、付け足す。「あなたたちのおかげでレシラムもゼクロムも目覚めた。ひとりの王じゃ、一匹しか目覚めそうになかったもの。二人の王に争ってもらえて良かったわ」
信じられない。
「ベル、なんで? ムンナがさらわれた時、すっごく心配してた。他人のポケモンが盗られた時だって、あんなに心配してたのに」
「そうやって、チェレンとあなたの出方を見てたの。明確にプラズマ団に敵対してくれれば、あとはNをけしかけて、どちらか二人を“もう一人の英雄”に祭り上げれば良かった」
「誰もが強くなれるわけじゃないって言ってたのは?」
「それは、ある意味で真実よ。最初はキュレムじゃなくてレシラムを探してたし」
「あの日」
私の目に、忘れられないあの日の光景が浮かんだ。アララギ博士からのプレゼントを、ドキドキしながら開けた。ベルと、チェレンとバトルした。三人一緒に旅立った。
「一番道路に、みんなで、いっせーので踏み出したのは」
「ごめんね。その時もう、私は遥か先まで行っていたのよ」
キュレムが姿を現した。灰色の、不格好に氷をまとった竜が、戦いの時を告げる。
Nと目が合った。私は頷いた。
「黒も白も、はじめから全部私の手の中にあったのよ」
ベルが高らかに笑う。
最後のバトルが始まった。