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シェイミ
 目の前には、こんもりと茂った雑草のように見えて、白い小さな手足を持つポケモン。地元の人に噂を聞いて、草いきれの中を半日探し回って、やっと見つけたポケモン。
「シェイミだ」
 ポケモンはつぶらな目を見開いてテトを見た。驚かせないように、中腰の姿勢をもっと下げて地面に腹ばいになる。
「ちょっとでいいので、スキンシップさせてもらえませんか?」
 欲望が口から出てしまった。野生のポケモンは急にぺたぺた触られると驚くんだからやめろ、と再三言われたのに、成長しない。しかし、このシェイミは例外の方だったらしい。ミィと鳴くと、伸ばされたテトの手に自分の体を乗せた。
「おお」
 感激。しつつもテトは胡座に体勢を変え、シェイミを膝の上に乗せる。小さなシェイミは体重も軽い。表情を見て、嫌がっていないことを確認。
 まずは、背中を覆う緑の体毛を触る。毛先を撫でるように、それから手を近づけてわしゃわしゃと。すると、まるで手を草地につっこんだかのような感触を返される。瑞々しく、それでいて固い繊維質。見た目通りの草のような手触りだ。
 それから腹の白い部分を撫でる。こちらは動物的な手触りだ。短く固めの毛の下に、ぷにぷにしたお肉を感じる。ミィミィとシェイミが笑った。調子に乗ってシェイミの湿った鼻面に触れる。
「ミ!」
 その途端、シェイミの背中にいくつもの花が咲いた。桃色の合弁花。シェイミの開花に触発されたかのように、テトとシェイミを取り巻く草いきれが同色同形の花を開かせていく。
 テトの手の中でシェイミが光る。テトの目の前で短かった足が伸び、こんもりとした雑草のような姿が、子鹿のような姿に変わる。桃色の合弁花は消え、代わりに鮮やかな赤の花弁が一枚、スカーフのように首元からたなびいていた。
「ミ!」
 ポケモンは一声鳴くと、テトの手に鼻面を押しつけて、上空へ飛び上がった。刹那、花畑が破裂するように揺れて、空飛ぶ子鹿たちが一塊となって飛び立った。
「空の花束」
 一つの生き物のように空を行く、緑と、白と、たなびく赤を見つめながら、テトはシェイミたちが地元でそう形容されていたのを思い出した。
 空の花束が飛んでいく。ハッと我に返って、テトは大きく手を振った。
「さようなら! またいつかスキンシップさせてね!」
 澄んだ空から、「ミ!」と元気な返事が返ってきた。
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