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恋の願い
 昔々のお話です。
 お互いを愛しく思う男と女がおりました。二人は別々の村に住んでおりましたが、距離の少し離れていることを除けば、二人の間に隔たりはありませんでした。
 そこへ戦が始まりまして、二人の住む村は別々の陣営に分かれてしまいました。今まで仲睦まじかった二人だというのに、こうなれば最早会うこともままなりません。諦められるならそうしたでしょう。しかし、愛や恋というものは、障害があれば却って燃え上がるもの。女は男と会えない日々を苦しく思い、来る日も来る日も、神に星に悪魔に願いをかけておりました。
 そうしていつしか、女の願いが届いたのでしょう。空から流星が、女の家に降ってきまして、煙突からするりと中に入り込みますと、光を放って不可思議な生き物の姿になりました。お星様を被ったようなその小さな生き物は、“ジラーチ”と名乗りまして、それから、女の元へ来た故を述べました。
「貴女にはどうしても叶えたい願いがあるようだからやってきた。私には願いを叶える力がある。さあ、貴女の願いを言ってください」
 女は大喜び。男と一緒になれる時が、とうとうやってきたのですから。そうして、女は願い事を口にしました。

「あの村の男と平和に過ごせるような、そんな世の中になってほしい」

 男と一緒になれるだけでなく、平和まで訪れる、そんな素敵な願いでした。
 ジラーチは「受諾した」と言いますと、体中から光を放ちまして、また流星の姿になって、煙突を通って空へ戻っていきました。

 それから数日後に、戦は終わりました。
 女の住む村の陣営の、大勝利という形で。

 女は男の村があった場所を訪れました。最早そこには何にもありません。男の家の場所にあったのは、炭になった柱だけで、床がなくなった跡からはぺんぺん草が萌え出ておりました。
 世の中はすっかり平和になりました。戦の後のごたごたもすぐに片付くでしょう。これから別れた家族がまた寄り添って、陣営の別もなく暮らせることでしょう。あの村の男と平和に過ごせるような、そんな世の中がやってきたのです。
 ただ、その中に男はいません。
 女はぺんぺん草の中に倒れ込むと、天まで引き裂きそうなむごい泣き声を上げました。
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